アフリカとヨーロッパの博物館 (A Museum in Africa and Europe)

 アフリカで博物館が新設されると、植民地時代にヨーロッパ諸国から奪われた芸術作品などを返却してほしいという要望が上がってくるようになった。2021 年実施の早稲田大学 (社会科学) の英語入試問題は、この問題をとりあげている新聞記事を使っている。この記事はイギリスの新聞 The Guardian に掲載されている。

 最近、アフリカで博物館が作られると、ヨーロッパ諸国が略奪した作品を返却してほしいという運動が湧きおこった。ヨーロッパの古い博物館の基本的な考え方は、人類学や考古学という学問に依存していたことに、この記事は最初に触れている。

With new museums opening in Africa and calls for restitution increasing, old institutions in Europe are being forced to address the legacies of empire as they have never before. The academic disciplines of anthropology and archaeology, which today seem innocuous, were among the most important colonial disciplines that helped to rationalise and justify the project of European imperialism.

(訳) 新しい博物館がアフリカで開設され、返却運動の要求が増すにつれて、ヨーロッパの古い施設は、これまでなかったような、帝国の遺産の問題に取り組まざるを得なくなっている。今日では興味も湧かない人類学や考古学の学問分野が、ヨーロッパ帝国主義の企画を合理化し正当化した、最も重要な植民地の研究分野の一つであった。

 人種差別のイデオロギーが、ヨーロッパの帝国主義を正当化していたが、ヨーロッパの博物館を包んでいた植民地主義の考え方は、最近では疑問視されている。

Finally, in the twenty-first century, the colonial mind-set enshrouded in some European museums is being questioned and rethought and we should all be paying attention.

(訳) ついに21世紀において、いくつかのヨーロッパにある博物館を包んでいた植民地の思考態度が、問題視され、再考されている。私たち全員が、このことを注意しておくべきだ。

 ヨーロッパの博物館が、どのように取り繕っても、人種差別のイデオロギーは隠せない。

No matter how fully and honestly the story of the Belgian Congo―in which millions of people were killed—is told, the very presence of these objects and the building does what it was designed to do: extend racist ideology and colonial violence through the objectification of Africans.

(訳) 数百万人が殺害されたベルギー領コンゴの物語を、どれほど十分に誠実に語られようと、これらの事物と建物が存在すること自体が、実行しようともくろまれていたことを実行している。それはアフリカ人の客体化を通して、人種差別のイデオロギーと植民地の暴力を広げることであった。

 アフリカの博物館とヨーロッパの博物館では、そのコンセプトがまったく異なっている。

As its director explained, the museum is not about ethnology or the past conjured by a European model of museums, but about duration, the future, youth and Africa "looking at itself," not gazed at by Europeans.

(訳) 博物館の管理者が説明したように、アフリカの博物館は、ヨーロッパの博物館によって呼び出された民俗学や過去に関するものではない。それは存続、未来、若者、ヨーロッパ人が見たアフリカではなくアフリカ人が見たアフリカについてである。

 アフリカの 15 ヵ国は協働して、ヨーロッパ各国が戦利品として奪ったものを返却してほしいと訴えた。

Last year, the 15 nations of the Economic Community of West African States agreed to an action plan for the return of African cultural property.

(訳) 昨年、西アフリカ諸国経済共同体の15ヵ国は、アフリカの文化財産の返却を求める行動計画に同意した。

 この新しいアフリカの考え方は、ヨーロッパの博物館の考え方を変更させる勢いである。

This new African thinking, moreover, challenges Europe to look at itself through its own "unfinished" anthropology museums. Foremost is the question of cultural restitution and the return of sacred, royal and culturally iconic artworks and material culture taken under colonialism.

(訳) さらに、この新しいアフリカの考え方は、ヨーロッパに「未完成の」人類学的博物館を通して、自分自身をみることをあえて要求した。もっとも重要なことは、植民地主義のもとで奪われた、文化物の返却、および神聖で王室所有のもので文化的に伝統ある芸術作品と物質文化の返還の問題であった。

 だからヨーロッパの博物館は、その創設のコンセプトを変更させる時期に来ている。

It is time to reimagine museums as sites of conscience―unique public spaces for understanding, remembering, and addressing the legacies of empire―for the restitution of knowledge and memory as well as of property.

(訳) 帝国の遺産を理解し、記憶にとどめ、検討する独特な公的スペースである博物館を、財産ばかりではなく、知識や記憶の返却のための良心の場として、新たに想像する時期である。

 この英文で、博物館が直面する新しい問題があることをよく理解できた。アフリカ諸国にとっては、重要な問題であり、ヨーロッパにとっては、かつての帝国主義を振り返る契機にもなるであろう。

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