きくち体操とボディ・スキャン瞑想 (Kikuchi Exercise and Body-Scan Meditation)

 ボディ・スキャン瞑想は、身体の各部位に、30 秒間意識を集中するという、単純な瞑想であるが、マインドフルネスの中ではもっとも重要な瞑想である。

 ボディ・スキャン瞑想について、ケン・ヴェルニ氏は、『図解マインドフルネスーしなやかな脳を育てる』(中野信子監訳、医道の日本社) の中で、

マインドフルネスの核になる瞑想であり、また呼吸の瞑想の次のステップにあたるものです。ボディ・スキャンでは、心身が統合するとともに、継続的に取り組むことで、深い滋養効果を得ることができます。(p.123)

と述べている。確かに、この瞑想を実践すると、不思議に体内に力が漲ってくるように感じる。筆者は夜間目が覚めて再び眠りに入れない時に、この瞑想をして心身を落ち着かせるようにしている。

 マインドフルネスのボディ・スキャン瞑想は、インターネットでも紹介されており、次のように簡明な説明がある。

By mentally scanning yourself from head to toe — many people imagine a laser copier scanning the length of their body — you are bringing awareness to every single part of your body, noticing any aches, pains, tension, or general discomfort. Staying present with and breathing into these sensations can help bring relief to our minds and bodies by evolving our relationship to pain, aches, and discomfort. (https://www.headspace.com/meditation/body-scan)

(訳) 頭から足指まで、心の中で細かく調べることで、多くの人は、身体の隅々までレーザー複写機が調べているように想像する。あらゆる痛み、苦痛、緊張、漠然とした不快に気付きながら、あなたは身体の全ての部位に意識を送り届ける。これらの感覚と向き合い、そこに息を吹き込んでいくと、苦痛、痛み、不快との関係を発展させて、心と体に安堵をもたらすことができる。

 また次のような英文もあるので、このブログで紹介したい。

Developing greater awareness of bodily sensations can help you feel more connected to your physical self and gain greater insight into potential causes of unwanted feelings. This knowledge can make it easier to address what’s wrong, leading to improved wellness in body and mind. (https://www.healthline.com/health/body-scan-meditation)

(訳) 肉体の感覚により深く気付いていくことは、肉体的自己と結びついていると感じ、望ましくない感情の目に見えない原因に対して、さらなる洞察を得る。この知識は、肉体と精神の改善された健康状態へと導き、悪い箇所を検討することをさらに容易にしてくれる。

 なぜ「きくち体操」とボディ・スキャン瞑想を並列して、このブログのタイトルにしたかとかと言えば、「きくち体操」の神髄が、マインドフルネスの神髄と通底しているからである。「きくち体操」は身体訓練をする際に、各部位に意識を集中することを推奨している。心がこもっていないで、身体を動かしても何の益もないことを、「きくち体操」創始者の菊池和子先生は喝破しておられた。それもマインドフルネスが人口に膾炙するずっと前のことである。「きくち体操」が優れた体操であることは、この一事をもっても明らかである。

 菊池和子先生は、『きくち体操』(ハルメク、2013年)で、脳と身体をつなげることの重要性を、次のように説いておられる。

一方、脳と体をつなげるという意味が理解できず、周囲を見て形だけを真似して動いたり、回数にだけこだわったりする人は、見かけは体操をしているように見えても、どうしてもいまひとつ、なんだか美しくないのです。がんばっているにもかかわらず、体調不良だったり、気持ちが後ろ向きになりがちだったりと、残念な状態の方が多く見受けられます。(p.17)

 脳と身体をつなげるという発想は、マインドフルネスの基本的な発想であり、これを菊池先生は、体操を通じて、認識しておられたことは驚嘆に値する。「きくち体操」が外面的な体操と峻別されるのは、この点である。ストレッチや筋肉増強も確かに、健康には良いであろうが、菊池先生の言われる「脳と身体のつながり」を会得しない限りは、本当の健康は得られないように思える。現在、88 歳の高齢にも拘わらず、今でも元気に活躍されている先生見ていると、先生の発見が真理だと思われる。

 武術を通してマインドフルネスを実践しておられる、筑波大学准教授の湯川進太郎先生は、マインドフルネスには「身体感覚」が重要であると考えておられる。『空手と太極拳でマインドフルネス』(BABジャパン、2017年)で、次のように「身体感覚」の重要性を説明しておられます。

こうして、サマタ瞑想で培った集中状態でヴィパッサナー瞑想をするとき、四念処にあるように、まずは「身体感覚」が重要です。ここへの気づきが、まずは最重要です。身体感覚の起こりや変化に気づいていくことで、その後に起こる感情反応や認知反応へも気づいていくことができます。つまり、仏教瞑想の観点からすると、身体感覚への気づきが非常に大切だということです。(p.72)

 なお湯川進太郎先生には、2014年に同じ BAB ジャパン出版社から、『空手と禅ー身体心理学で武道を解明』という興味深い著書もあるので、マインドフルネスに興味のある方は、ぜひ一読をお勧めしたい。

 マインドフルネスから「菊池体操」、さらに禅や空手まで拡がっていったが、私は毎日「きくち体操」をして、菊池和子先生の境地へ一歩でも近づきたいものである。

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