ダイアナ妃に捧げる弔辞 (A Memorial Address to Princess Diana)
もう遠い過去のことになったが、1997 年 8 月 31 日、交通事故のためにパリ郊外で、ダイアナ妃 (1961-1997) が亡くなった。パパラッチ (有名人を追い回しゴシップ写真を撮ろうとするフリーランスのカメラマン) の追跡を避けるために、ダイアナ妃を乗せたベンツの運転手がスピードを出し過ぎて、パリ郊外のトンネル内で他車と接触事故を起こし、中央分離帯に正面衝突したのである。その事故は、1996 年 6 月に、現在イギリス国王となっているチャールズ皇太子とダイアナ妃の離婚が成立して、1 年も経っていない時期に起こった。
イギリス国民の大きな悲しみ
このブログの筆者は、事故当日はイギリス留学中で、新聞やテレビを通して、イギリス国民の大きな悲しみを肌で感じた。事故から 1 週間後の 9 月 6 日に、準国葬という形式でダイアナ妃の葬儀が行われたが、筆者はソールズベリーに旅行で滞在していた。葬儀の時間帯には、街中がひっそりとしており、誰一人通りにはいなかった。
ダイアナ妃の葬儀は、テレビで何度も放映された。出席者は、映画監督のスティーブン・スピルバーグ (Steven Spielberg, 1946-) 、イギリス元首相マーガレット・サッチャー (Margaret Hilda Thatcher, 1925-2013) 、元アメリカ大統領夫人ヒラリー・クリントン (Hillary Diane Rodham Clinton, 1947-) など錚々たるメンバーであったが、特に印象に残っているのは、ダイアナ妃の弟スペンサー (Charles Edward Maurice Spencer, 9th Earl Spencer, 1964-) が姉の死を悲しみ、けなげにも弔辞を読んでいた姿であった。彼はダイアナ妃が亡くなったことを知ったとき、「私はプレスが彼女を殺すといつも思っていた」と述べ、マスコミを批判したことは有名である。
スペンサーの悲しみに満ちた弔辞
彼の弔辞は、今読んでも胸に迫るものがある。筆者が大学教授で英語を教えていたころ、学生にこの文章を何度となく読ませたものだ。
I stand before you today the representative of a family in grief, in a country in mourning before a world in shock. We are all united not only in our desire to pay our respects to Diana but rather in our need to do so. For such was her extraordinary appeal that the tens of millions of people taking part in this service all over the world via television and radio who never actually met her, feel that they too lost someone close to them in the early hours of Sunday morning. It is a more remarkable tribute to Diana than I can ever hope to offer her today.
(訳) 私は今日、悲しみに暮れる家族の代表として、悲しみに暮れる国を代表して、世界がショックを受けている前に、皆さんの前に立っています。私たちは皆、ダイアナ妃に敬意を表したいという願望だけでなく、そうする必要があるという点でも結びついています。というのも、彼女の並外れた魅力は、テレビやラジオを通じて、世界中でこの礼拝に参加している何千万人もの人々で、実際に彼女に会ったことのない人々が、日曜日の早朝に身近な人を失ったと感じているからです。これは、ダイアナ妃への賛辞として、今日、私が彼女に捧げたいと願うよりも、もっと素晴らしいものです。
スペンサーの弔辞の締め括り
文章が長いので、スペンサー伯の弔辞の最後の部分を見てみよう。
I would like to end by thanking God for the small mercies he has shown us at this dreadful time. For taking Diana at her most beautiful and radiant and when she had joy in her private life. Above all we give thanks for the life of a woman I am so proud to be able to call my sister, the unique, the complex, the extraordinary and irreplaceable Diana whose beauty, both internal and external, will never be extinguished from our minds.
(訳) 最後に、この恐ろしい時期に神が私たちに示してくださった小さな憐れみに感謝したいと思います。ダイアナ妃を最も美しく輝かせ、私生活で喜びを感じていた頃に連れて行ってくれたこと。何よりも、私の姉と呼べることを誇りに思っている女性、ユニークで、複雑で、並外れた、かけがえのないダイアナの人生に感謝し、その美しさは、内面と外面の両方で、私たちの心から決して消えることはありません。
長文なので、全文を引用し紹介できないのが残念であるが、興味のある方ぜひ読んでほしい。スペンサー伯の真情があふれ、胸打つものを感じるはずである。