宇宙と人体 (The Cosmos and a Human Body)
最近、宇宙に興味を持ち、YouTube で「宇宙の起源」や「ビッグ・バン」や「ブラックホール」の解説を面白く聞いているが、特に、東京大学理学部の説明は奥が深くいつも感心する。映像と音声で丁寧に説明してもらえるので、素人の私にも分かりやすいのでたいへん有難い。インターネットが発達した世界に住んでいる幸せを感じる瞬間である。世間では新型コロナウィルスの新規感染者数に一喜一憂しているが、私は宇宙の授業を聞いて、胸を躍らせている。
ブラックホールの説明ついて驚いたことは、ブラックホールの表面にすべての情報が書かれているとのことである。どのような情報かははっきりと分からないが、とにかくすべての情報がそこにあるらしい。またこの三次元の世界は絶えず膨張しているようだが、膨張しているということは、この三次元の世界には端があるはずだ。ある科学者はその端に三次元の世界の情報がすべて書かれているとのことである。
ここから想像を膨らませて考えるのだが、もしそうなら地球上で起こった様々な出来事もそこに残っているのであろうか。人類の誕生からここまで発展した私たちの詳細な歴史が、そこに記述されているかもしれない。広い宇宙のことを考えると、己の知識の狭さに呆然とする。
これまでは死について、死後の生命はなく、一切のものは無になり、自己も消滅すると考えていたが、ひょっとすると、この考えも狭いのかもしれない。もっと広くて深い死に対する考え方もあるのかもしれない。
ブラックホールの無の中に、いろいろなものが詰まっているという説明も聞いた。科学的な番組だから偽りを話すことはないと信じているが、もしそれが真実なら般若心経にある「色即是空、空即是色」も、何となく分かるような気もする。『般若心経・金剛般若経』 (岩波文庫、2013 年第74刷) の中村元の訳を見てみよう。
この世においては、物質的現象には実体がないのであり、実体がないからこそ、物質的現象である。実態がないといっても、それは物質的現象を離れていない。また、物質的現象は実態を離れて物質的現象があるのではない。
これまでは般若心経は、内容が難しく凡人には分からないから、人が永く有難がっているお経だと思っていたが、その奥にはひょっとして何か深い真理が潜んでいるのかもしれない。
宇宙の話を聞いた後に、柳澤桂子氏の『ふたたびの生』(草思社、2000年) を読んでみると、人体の不思議さを感じさせられる。柳澤氏は何十年も原因不明の病気にかかり、苦しい生活をされていたが、最近になって抗うつ剤でその病気が治ることを教えられた。それまで寝たきりの生活で「中心静脈栄養」をしてやっと生きておられたのであるが、抗うつ剤で少しずつ普通の生活が送れるようになった。彼女は自分の病気に次のような仮説を立てた。
この病気の原因はまだ明らかではないが、次のような仮説を立てることができる。脳幹部の NE ニューロンの緊張が高まり、それが一定の閾値を超えた場合、CRF、ADH の放出が起こる。CRF と ADH は脳下垂体からの ACTHの分泌をうながす。次に ACTH は、副腎から副腎皮質のホルモンを分泌させる。ノルエピネフリン (NE) は、同時に延髄の嘔吐中枢を刺激して、嘔吐を誘発させる。嘔吐発作は、それ自身 ADH の放出をうながし、その ADH はさらに ACTH の分泌をうながして三者の間に悪循環が起こる。(145ページ)
この病気にかからない人は、上記のようなことが起きないからである。人体の中でこのような微妙な調整が行われていることは、宇宙に存在するブラックホールの性質と同じように驚嘆すべきことである。
私たちは広大な宇宙の知識と微妙な人体の構成の前で、ただ頭を下げるだけである。
