民主主義の危機 (The crisis of democracy)

国会議事堂 東京都千代田区永田町 1936 年に完成

 

 2015 年実施の神戸大学の英語入試問題は、民主主義の危機についての英文を取り上げている。危機とは 2008 年に始まった世界的な経済危機ではなく、気づかれにくいが、民主主義の基礎を覆すような危機である。

No, I mean a crisis that goes largely unnoticed, like a cancer; a crisis that is likely to be, in the long run, far more damaging to the future of democratic self-government: a worldwide crisis in education.

(訳) 経済的な危機ではなく、ガンのようにほとんど気付かれなく進行する危機である。長期的に見れば、それは民主主義の自治にとって、経済的危機以上に有害なものである。それは教育における世界的な危機である。

 筆者が取り上げているのは、教育の危機であり、それは民主主義の将来にとっては痛手となるものである。

Radical changes are occurring in what democratic societies teach the young, and these changes have not been well thought through.

(訳) 根本的な変化が、民主社会が若者に教えることに起きている。そしてこれらの変化は、あまりじっくりと考えられてこなかった。

 このような重大な変化を、国家が考えなかったのは、利益追求を第一に考えたからである。

Thirsty for national profit, nations, and their systems of education, are heedlessly discarding skills that are needed to keep democracies alive.

(訳) 国家利益を熱望するために、国々やそれらの教育システムは、民主社会を存続させ続けさせるのに必要な技術を不注意にも捨てている。

 次にやっと民主主義の危機の原因を挙げている。

What are these radical changes? The humanities and the arts are being cut away, in both primary/ secondary and college/university education, in virtually every nation of the world.

(訳) このような過激な変化は何であろうか?人文科学や芸術科目が、初等・中等教育や単科大学・総合大学教育から、世界中のほとんどすべての国で、切り捨てられているのである。

 このような変化は、人間の未来に悪影響を与えると、筆者は警告している。

We haven't really deliberated about these changes, we have not really chosen them, and yet they increasingly limit our future.

(訳) 実際には、私たちはこれらの変化について熟慮してこなかった。実際には、私たちはこのような変化を選んでいなかった。それでもそれらの変化は、私たち将来を制限するであろう。

 人文科学や芸術の軽視は、人と人を結び付ける "soul" を育てることができないと、筆者は主張する。筆者の "soul" の定義は、次のようなものである。

What I do insist on, however, is what both Tagore and Alcott meant by this word: the faculties of thought and imagination that make us human and make our relationships rich human relationships, rather than relationships of mere use and manipulation.

(訳) しかしながら、私が言いたいことは、*タゴールや**オールコットが、魂という言葉で表現したものである。魂とは思考と想像力の能力であり、私たちを人とし、単なる利用と操作の関係ではなく、私たちの人間関係を豊かな関係にするものである。

 人文科学や芸術科目の切り捨ては、民主主義の根幹である魂を切り捨てるようなものであると、この英文の筆者は訴えている。

 内田樹の英語教育の項で触れたように、私が大学教授であったころも、英語偏重で、英語以外の第二外国語削減の風潮があった。私が勤めていた大学の執行部には、特にドイツ語に嫌悪感を持っている人がいた。言語学習は世界解釈の窓であると、私は主張して、第二外国語削減に一貫して反論したが、人文科学や芸術科目削減には、もっと反対しなければならない。

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* タゴール (1861-1941) インドの詩人、1913年にノーベル文学賞を受賞

** オールコット (1799-1888) 米国の哲学者、社会改良家

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