デカルトに影響を与えた女性思想家 (The Female Thinker who influenced Rene Descartes)

 Quartz (2017年5月) という雑誌が、デカルト (René Descartes) に関して興味深い論文を掲載している。それによれば、デカルトは独創的な思想家としての地位を確立しているが、実際には当時の著名な女性思想家 アヴィラの聖テレサ (Teresa of Ávila) から多大な影響を受けているようだ。

 アヴィラの聖テレサとは、1515 年に生まれて1582 年に没するまで、スペインのローマ・カトリック教会の神秘家であり、修道院改革に尽力した人物として知られている。

 デカルトに対して、聖テレサの影響を示唆した人物は、コロンビア大学哲学教授の クリスティア・マーサー (Christia Mercer) で、彼女は神秘家という言葉が、聖テレサの業績を覆い隠す働きをしているという。

The word “mystic,” however, has a broad, vague meaning—and it veils the fact that Teresa was a philosopher. “The category ‘mystic’ allows us to throw someone in that container, shut the lid, and assume that that person isn’t a thoroughgoing philosopher,” says Mercer. “It so happens that a lot of women have been put in that category.”

(訳) しかしながら、「神秘家」という言葉には、範囲が広く曖昧な意味があるが、その言葉はテレサが哲学者である事実を隠している。「神秘家という範疇は、誰かを容器に入れ、ふたをして、その人が完全な哲学者ではないと考える」とマーサーは言う。「多くの女性がその範疇に入れられるということが起きている」

 デカルトが「我思うゆえに、我あり」という思想にたどり着く過程が、テレサと酷似していると、マーサーは指摘する。

Given that Descartes is considered to be such an original thinker, the similarities are striking. “All the steps through to the Cogito are the same,” says Mercer. “He stripped away everything else so the only thing left for him to contemplate is that he’s thinking. The content of some of their claims are different. But the structure and the steps in the methodology are virtually identical.”

(訳) デカルトが非常に独創的な思想家であると考えられているにしても、デカルトとテレサの類似性は顕著である。「我思うゆえに我ありにたどり着くすべての行程は同じである」とマーサーは言う。「デカルトは他の全てをはぎ取って、瞑想して残された唯一のものは、彼が考えていることである。彼らの主張の内容は異なっているが、その手順の構造と行程は、ほとんど類似している」

 デカルトがテレサの本を読んでいたとする明確な証拠はないが、当時の有名人であったテレサの思想内容を彼は知っていた、とマーサーは結論づける。

“Even if he didn’t read her book, he would’ve been familiar with her ideas,” adds Mercer. After all, Teresa was a spiritual “rock star” at the time. “One of the reasons male philosophers don’t mention reading these spiritual texts is because everyone did,” she adds.

(訳) 「デカルトがテレサの本を読んでいないとしても、彼は彼女の思想に通じていたであろう」とマーサーは付け加えて言う。結局、テレサは当時の宗教信仰の有名人であった。「男性の哲学者が、このような霊的なテキストを読んだことを言及しないのは、誰もが読んでいたからである」とマーサーは述べる

 男性であるデカルトは、女性思想家の影響を受けていると言いにくかったのであろうか。当時は女性蔑視が当然であったので、デカルトもその風潮に押し流されたのであろうか。この問題はもっと多くの議論が必要である。

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