女性運動選手の性別判定(Gender Testing for Female Athletes)

 2021 年実施の早稲田大学英語入試問題(法学部)には、面白い英文が 2 つ使われている。

 1 つ目は、台湾におけるインターネット議論である。インターネットの議論が、政治家の法律制定を助けているという内容。初めは、相手陣営を貶してばかりいるが、最後にはお互いが歩み寄り、よりよい法律を作成する方向に行くようである。日本では、相手陣営を非難して終わることが多いので、この点は日本は台湾を見習うべきであろう。

 2 つ目は、運動選手の性別判断についての英文である。1960 年代や 1970 年代には、性別判断は簡単であると、人々は単純にも考えていた。だが性別の判断は、それほど簡単ではなかった。

〇 モントリオール・オリンピック

 1976 年のモントリオール・オリンピックにイギリス王室のアン王女が乗馬で出場されたが、アン王女だけには、性別判断のテストを受けなかった。その間の事情を、入試問題の英文では、次のように説明している。

The high spot / low spot of this historical moment came at the 1976 Olympics in Montreal, when every single female athlete except Princess Anne was subjected to a sex test which involved nothing more complicated than a grope.

(訳) この歴史的な瞬間の印象深い部分と低劣な部分は、1976 年のモントリオール・オリンピックで起こった。その時、アン王女を除いたすべての女性選手が、身体を触る以上の複雑な検査はない、性判別テストを受けさせられた。

 このような単純な性判別テストは、さらに複雑なものになったが、ある女性は生まれつき、かなりの男性ホルモンを持っており、少ないながら、Y 染色体を持つ女性もいることが分かり、1999 年にオリンピック委員会は、性判別テストを中止した。

〇 染色体

 通常は、女性の染色体は XX であり、男性の染色体は XY である。しかしこの例から外れる女性も存在する。

In some cases, there is a discrepancy between the chromosomes and the body's hormone kit; in particular, some women are chromosomally XY, but also produce a hormone which blocks the operation of the male hormones.

(訳) ある場合には、染色体と身体のホルモン一式との間に差異がある。特に、ある女性は染色体は XY であるが、男性ホルモンの働きを抑えるホルモンを作り出している。

 このような訳で、XY の染色体を持つ女性は、Y 染色体の機能を抑えるホルモンを産出して、女性の容姿を保っているわけである。だから XY 染色体を持っているからと言って、その女性を男性と決めつけることはできないのである。

〇 intersex について

 この入試問題の最後に、"intersex" という単語が出てくるが、意味は「男女の身体的特徴を併せ持ち、男女の区別をつけられないこと」である。このような人は生きる上で苦しい立場に立たされている。個人の責任ではなく、遺伝子の悪戯であるが、この intersex という言葉が、広く認知されれば、このような人も、生きやすい世の中になると思われる。

 この英文の筆者の結論は次のようなものである。

I'm not sure what conclusion one should reach, other than that the lives of people with intersex conditions might be easier if this fact were more widely known, and that Ms. Semenya has been very harshly treated.

(訳) インターセックスという事実が広く知られれば、このような状態の人々の生活はもっと容易になり、セメンヤさんはひどい扱いを受けたという以外には、どのような結論にたどり着くべきか、私には分からない。

〇 Ms. Semenya について

 セメンヤ選手は世界陸上 2009 年で性別を疑われて、性判別テストを受けさせられた南アフリカ共和国の陸上選手である。そのテストの結果、子宮と卵巣が無く体内に精巣があり、通常の女性の3倍以上のテストステロン(男性ホルモンの一種)を分泌していることが判明し、性分化疾患が判明した。世界陸連は「人為的なものではないため、セメンヤの金メダルが剥奪される可能性は無いだろう」としているものの、大会に参加しないように求められた。英語入試問題の英文にある "harshly treated" は、このような事情を説明したものである。

 性分化疾患を持ち、過酷な試練を受けたセメンヤ選手であるが、このような感動的な言葉を残している。

I accept myself. I am who I am, and I'm proud of myself.

(訳) 私は自分を受け入れています。これが私であり、自分を誇りに思っています。

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