偉大な小説 (Great Novels)

 Britannica Online の有料会員になっているので、時々、時間つぶしに Britannica を覗いている。世界屈指の百科事典なので、教えられることは多い。ただ、最近は円安傾向のため、年々、会費が高騰していることが、頭の痛いところである。

 その Britannica に「これまで書かれた偉大な 12 の小説」 (12 Novels Considered the “Greatest Book Ever Written") という項目に出くわした。このタイトルを見ると、すぐにサマセット・モーム (William Somerset Maugham, 1874-1965) の Ten Novels and their Authors (1954) を思い出す方も多いのではないだろうか。

モームの十大小説

モームは次のような作品を挙げている。

ヘンリー・フィールディング 『トム・ジョウンズ』 The History of Tom Jones, a Foundling (1749)

ジェーン・オースティン 『高慢と偏見』 Pride and Prejudice (1813)

スタンダール 『赤と黒』 Le Rouge et le Noir (1830)

バルザック 『ゴリオ爺さん』 Le Père Goriot (1835)

チャールズ・ディケンズ 『デイヴィッド・コパ―フィールド』 David Copperfield (1849-1850)

フローベール 『ボヴァリー夫人』 Madame Bovary (1856)

ハーマン・メルヴィル 『モービー・ディック』 Moby Dick (1851)

エミリー・ブロンテ 『嵐ヶ丘』 Wuthering Heights (1847)

ドストエフスキー 『カラマーゾフの兄弟』 The Brothers Karamazov (1880)

トルストイ 『戦争と平和』 War and Peace (1865-69)

 モームが言及している 10 の小説の中で、私がもっとも印象に残っている作品は、『カラマーゾフの兄弟』である。高校 1 年生の時に読破して、精神的にかなり影響を受けた。それから神や死や永遠について、考えに耽ることがよくあった。大学に入学しても、周囲で盛り上がっていた学生運動より、人間の死について、深く考えこんでいた。いまでもこの問題は解決していないので、心の襞の内部に、燻り続けていることになる。

Britannica が挙げる 12 の小説

 一方、 Britannica が挙げる 12 の偉大な小説は、次のとおりである。

Anna Karenina (1877) Tolstoy, Aleksey Konstantinovich (1817-75)

To Kill a Mockingbird (1960) Nelle Harper Lee (1926-2016)

The Great Gatsby (1925) Charles Dickens (1812-1870)

One Hundred Years of Solitude (1967) García Márquez (1928-2014)

A Passage to India (1924) E. M. Forster (1879-1970)

Invisible Man (1897) Herbert George Wells (1866-1946)

Don Quixote (1605, 1615) Miguel de Cervantes Saavedra (1547-1616)

Beloved (1987) Toni Morrison (1931-2019)

Mrs. Dalloway (1925) Virginia Woolf (1882-1941)

Things Fall Apart (1958) Chinua Achebe (1930-2013)

Jane Eyre (1847) Charlotte Brontë (1816-1855)

The Color Purple (1982) Alice Walker (1944-)

Things Fall Apart について

 モームが挙げている 10 の小説は、誰もが知っているものであるが、Britannica が挙げている 12 の小説は、全ての人が知っているような小説ではない。特に、Things Fall Apart 『 崩れゆく絆』は、知っている方が、そんなに多くないのではないだろうか。この作品は、ナイジェリア作家である チニュア・アチベ (Chinua Achebe, 1930-2013) のデビュー作で 、1958 年に執筆された。古くからの呪術や慣習が根づく大地で、黙々と畑を耕し、戦いに明け暮れ、一代で名声と財産を築いた男オコンクウォ (Okonkwo) の物語である。彼の誇りと、村の人々の生活を蝕み始めたのは、凶作でも戦争でもなく、新しい宗教の形で忍び寄る欧州の植民地支配だった。

One Hundred Years of Solitude について

 また One Hundred Years of Solitude 『 100年の孤独』 は、文庫本が発売されたことによって、最近また注目されている作品であるが、このブログの筆者は知らなかった。この小説は、ガルシア=マルケス (García Márquez, 1928-2014) の代表作で、世界各国でベストセラーになり、ラテン・アメリカ文学ブームを巻き起こしたようだ。さらに本作でガルシア=マルケスは、1982 年秋にノーベル文学賞を受賞した。蜃気楼の村マコンドを開墾しながら、愛なき世界を生きる孤独な一族の歴史を描いた一大長編小説である。日本の著名な作家が、以下のような賛辞を呈している。 (以下の引用は https://withnews.jp/pressrelease/article/11738 からのもである)

ミクロとマクロを往来する、「物語」にしか成し得ない奇跡。西加奈子(作家)

想像力の限界を超えた作品。この本がなければ、ぼく自身が小説を書けなかった。小川哲(小説家)

毎晩この本を 10 ページ読んで、南米の魔法に酔いしれよ!齋藤孝(明治大学文学部教授)

 これまで知らなかった傑作を教えてもらうことは、とても有難い。早速、『崩れゆく絆』と『100年の孤独』を、アマゾンに注文して読んでみたい。老境に達しても、新しい文学に接することは刺激になり、狭い空間から放たれる思いがする。

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