ガリレオ・ガリレイの地動説 (Galileo Galilei's Heliocentrism)

 コペルニクスの地動説を認めたために、ガリレイは宗教裁判にかけられ、有罪の判決を受けるが、その時彼が「それでも地球は動く」とつぶやいたという言い伝えは、誰でも知っている。

 しかし 2022 年 5 月 5日に発行された History Today の記事は、その言い伝えには確証がないと論じている。

There is no hard evidence that Galileo ever said ‘And yet it moves’. This compelling account of a scientific martyr did not even begin to take shape until well over a century later when it was recruited to vilify the institution of the Catholic Church rather than Christianity more generally. Like the tale of Isaac Newton’s supposed inspiration beneath an apple tree, the Galilean myth first began to flourish in the 19th century when it helped to promote a new social type: the scientist, a word invented in 1833 but not in common usage until the early 20th century.

(訳) ガリレオが「それでも地球は動く」と言ったのには、確証がない。科学の殉教者であるガリレオの注目すべきこの話は、一世紀以上経つまで、具体化されることはなかったが、その時には、キリスト教という大きな対象ではなく、カトリック教会の制度をけなすために、その話が取り上げられた。リンゴの木の下でアイザック・ニュートンが着想を得たと信じられている話のように、ガリレオの神話は、まずは 19 世紀に広まり始めた。19 世紀には、1833 年に作り出されたが 20 世紀初期まで一般に使用されなかった言葉である「科学者」という、社会における新しいタイプを広めるのに、ガリレオの神話は役立った。

 今では地動説が当然のことのように考えられているが、17 世紀の人にとって、地動説は容易に信じられる説ではなかったと想像できる。またキリスト教にとっても、地動説は進化論と同じように、宗教界全体を揺るがす事件であったであろう。しかし、そのような地動説を唱えるガリレオに対して、アーバン八世教皇 (Pope Urban VIII) は、9 年間の自宅軟禁を言い渡しただけであった。宗教裁判と言えば、魔女裁判が有名であるが、その時は多くの罪のない女性が焼き殺されている。アーバン八世教皇も、内心地動説を信じていたのかもしれない。

 この記事を書いた人物は、ケンブリッジ大学の名誉教授 Patricia Fara であるが、私が特に興味を持ったのは、この記事の最後である。そこで彼女は、ドイツの理論物理学者マックス・プランクの言葉を取り上げて、科学的真理が勝利を収めるのは、反対者を説得することではなく、反対者が死ぬことであり、科学的真理に慣れ親しんだ新しい世代が成長することだと論じている。

Determined to disseminate his ideas, Galileo published an imaginary, biased conversation in vernacular Italian that ostensibly weighed up geocentrism and heliocentrism, but provocatively voiced the pope’s own arguments through an obtuse Aristotelian called Simplicio. Although a version of Galileo’s model eventually claimed victory, the pope won that round of the battle by sentencing him to nine years of house arrest. Some 300 years later, contemplating the innovations of relativity and quantum mechanics, the German theoretical physicist Max Planck pronounced that ‘A new scientific truth does not triumph by convincing its opponents and making them see the light, but rather because its opponents eventually die, and a new generation grows up that is familiar with it.’

(訳) 彼の思想を広める決意をして、明らかに地動説と天動説を比較し、シンプリチオと呼ばれる愚鈍なアリストテレス派の人物の口をかりて、教皇自身の議論を怒らせるように表明した、イタリア俗語で書かれた、想像的で偏見に満ちた会話を、ガリレオは出版した。 ガリレオの考え方が、結局は勝利を主張しているが、この試合のラウンドでは、9 年間の自宅軟禁という処罰をガリレオに与えることで、教皇が勝った。およそ 300 年後に、相対性理論と量子力学の革新的理論を考慮して、ドイツの理論物理学者マックス・プランクは、次のように宣言した。「新しい科学真理は、反対者を説得し、反対者に真理を見させるのではなく、最後には反対者が死に、新しい科学真理に慣れ親しんだ若い世代が成長することによって、勝利する」

 生まれた時から古い信仰にさらされて、それを信じ切っている人々に、新しい真理を認めさせることは困難であろう。古い信仰を捨て去ることは、自己否定に繋がり、生の基盤が脆弱になることとなる。

 私自身は、受け入れることが困難な真実に対して、なるべく心を開いていたいと思うが、正直言って自信がない。

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