日本における暗殺の歴史 (History of Assassination in Japan)

東京都南区高輪にある泉岳寺 浅野長矩や赤穂義士の墓がある曹洞宗の寺で、山号は万松山

 

 元総理大臣の安倍晋三氏が、2022 年 7 月 8 日に暗殺された事件について、海外の反応はどのようなものであろうかと、様々な海外新聞・雑誌を見ているうちに、2022 年 7 月 9 日付の The Spectator に興味ある寄稿文があった。

 その文章の中に「中核派」という文字があったので、私の青春時代を思い出して、英文の寄稿文を一気に読んでしまった。もう 50 年以上前になるが、私が大学を受験する時、中核派と革マル派の対立が激しくなり、受験中に過激派が構内に流れ込んでくる可能性があった。

 有難いことに、機動隊の方々が、過激派の構内侵入を防いで下さっていたが、私たち受験生は、受験の重圧とそれら活動家の襲撃の危険に備えなければならなかった。私はあまりにも緊張して、受験中ずっと嘔吐感を感じていた。ある試験監督官が、親切にも「大丈夫ですか」と、私に声をかけてくれたが、その後は不思議に落ち着いて、試験問題の解答ができた。そのおかげで、無事志望大学に入学することができた。

 著者の Francis Pike は、安倍晋三氏の暗殺を、日本の暗殺の歴史を視点において、考察を進めている。赤穂浪士の吉良邸への襲撃 (1702年)、井伊直弼の桜田門外での暗殺 (1860年)、明治時代の大久保利通の暗殺 (1878年)、 五・一五事件 (1932年) での犬養毅の暗殺、ニ・二六事件 (1936年) での高橋是清の暗殺などを取り上げて、政治を暗殺という暴力で解決するという日本伝統の存在を指摘している。

Francis Pike は、論説の最後に中核派について触れている。中核派は、昭和 38 年 2 月に革マル派と分裂し発足したが、私が中核派や革マル派という言葉に敏感に反応するのは、上に書いたように、私の高校時代や大学時代に、中核派や革マル派のニュースが、連日のようにテレビで流れていたからである。そして私の人生にも大きな影響を与えたからである。

 Francis Pike は、安倍晋三氏の暗殺を、日本の暗殺の歴史から眺める必要があると、次のように述べている。

When we look at the assassination of former prime minister Shinzo Abe therefore, we should not be deluded into thinking that Japanese society is the island of calm that some Japanophiles imagine. Underlying this seemingly rigidly controlled and conforming society, where the levels of crime are a fraction of the West, there is an undercurrent of extreme violence that has long historic roots.

(訳) それゆえ、私たちが元総理大臣の安倍晋三氏の暗殺を考える時は、親日家の人々が想像するような、日本社会は平穏な島国であると、騙されて考えてはいけない。犯罪のレベルは、西洋諸国のほんのわずかであるが、一見厳格に統治され規則に従う社会の下には、長い歴史的根源を持つ過激な暴力の底流が存在している。

 この歴史の底流が、安倍晋三氏暗殺に繋がっていると、Francis Pyke は主張する。

Shinzo Abe’s life, family history, beliefs and even his death exemplify this pattern. Japanese people are not always the mythologised polite bowing caricatures depicted on television. It is a country and people that cannot escape the fact that its history and culture since the Meiji Restoration in the late 19th Century is drenched in blood.

(訳) 安倍晋三氏の生涯、家族史、信念、死は、このパターンを実証している。日本国民は、常にテレビで描かれる神話化された丁寧にお辞儀をするカリカチュアとは限らない。19 世紀の明治維新から、日本の歴史や文化は血塗られていたという事実から、逃れることができない国であり、国民である。

 2022 年 7 月 8 日に起きた元総理大臣安倍晋三氏の暗殺は、日本国民に大きな衝撃を与えた。これからも安倍晋三氏の暗殺は、語り継がれるであろう。今はただご冥福を祈るばかりである。

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