きくち体操と感謝の心 (Kikuchi Exercise and Gratitude)
2022 年 3 月 12 日、午後 1 時から、「きくち体操」の創始者である、菊池和子先生の講演があった。提供は「朝日新聞 Re ライフフェスティバル 2022 春」である。
私は「きくち体操」事務局の菊池智子先生から、わざわざこの講義の存在を教えて頂いた。有難いことである。この情報がなければ、菊池和子先生の謦咳に接することはできなかったはずである。
始まる数分前から、パソコン前で緊張して座って待っていた。そして始まった途端、菊池和子先生の若い肉体に圧倒された。先生はたしか御年 88 歳 なのに、身のこなし、身体の用い方は、40 代でも通るのではないだろうか。
菊池先生は、最初に肉体の構造を丁寧に説明された。精妙な肉体に存在する筋肉と骨のつながりに触れられた。先生の話を聞いて、なんと人の身体は緻密に作られているのであろうか、と驚嘆した。これまで誰からもこのような話は聞いたことがなかった。また筋肉を動かすことが、骨の育成にもなるという教えには、はっとさせられた。骨と筋肉がそのような協調作業をしているという事実は、頭では知っていたが、先生の口から聞くと、心にずっしり響いてきた。
このブログで「マインドフルネスのボディ・スキャン瞑想」と「きくち体操」の類似点を書いたが、この点が両者の明確な相違点であった。マインドフルネスは精神を和ませ、きくち体操は肉体に働きかける。
それにしても大学時代の体育の授業は、ほとんど形骸化しており、人の肉体を見直すという作業は一切なかった。ただ、バレーボール、テニス、ソフトボール等に分かれて、自分勝手に運動をしていた。バイトに忙しく、時々さぼっていたが、欠席の補講には近郊の山登りがあった。この山登りは楽しかった。やっとの思いで到達した山頂から眺める下界は、新鮮な空気の中で澄み渡っていた。これしか大学の体育授業には思い出がない。
菊池和子先生の実技の講義は、足裏の感覚、足指の感覚から始まった。重要なことは、足裏、足指を脳と結びつけることであると、先生は何度も強調された。脳と各身体部位の結び付きは、「きくち体操」の要諦である。この点が他の体操と「きくち体操」が峻別される点である。
先生がもう一つ強調されたことは、身体への感謝の心である。これほど精巧な構造を備えた身体に「感謝する心」を持つ重要性である。
私にとってこの言葉はとりわけ心に沁みこんでいく。このブログでも書いたが、私は 数年前に脳内血管閉塞になり、本来であれば半身不随の身体になっているはずが、どういうわけか血液の足りないところに、毛細血管が張り巡らされて、日常何の不自由もなく動くことができる。菊池和子先生が、この講義の中で、身体への感謝に言及されたが、私にはその言葉が心から納得できる。
講義が進むにつれて、さらに驚いたことは、菊池和子先生は、座って両足を横に伸ばし、屈伸運動を始められたことである。私は座って両足を横に伸ばすことは、足がつって完全にはできないし、まして屈伸運動などは、夢のまた夢である。
菊池先生は、立ったまま屈伸運動をされたり、片一方の足を椅子にかけて、屈伸運動なども実演された。「軽やかに」と私は表現したいが、その形容がもっともぴったりするであろう。菊池先生の身体は、その屈伸運動に逆らうことはなく、むしろ自然な共同作業のように、なめらかに動いていく。まるで幻想を見ているようであった。高齢なのにこれほど柔軟な肉体は見たことがない。ただ敬服の念しか湧かない。
最後に先生の講義で印象に残ったことは、人への愛情である。視聴者の一人一人に、「しっかり体操をして楽しく生きましょう」という先生の無言のメッセージが、先生の身体全体から伝わってきた。多くの方に「きくち体操」で健康を授けてきた先生の自信の表れのように感じられた。
私も毎日、身体と脳を結び付けて、「きくち体操」を継続していきたい。菊池和子先生、有り難うございました。