スコットランド女王メアリーの手紙 (Letters of Mary, Queen of Scotland)
スコットランド女王メアリー (Mary Stuart, 1542-87) の手紙が、57 通発見されたという衝撃的なニュースを、2023 年 2 月 8 日の Scientific American で、ステファニー・パパス (Stephanie Pappas) が論じている。シェイクスピアを研究している私にとって、見逃せないものである。
フランス国立図書館 (National Library of France) の片隅に置いてあった文書は、これまで見たこともないメアリーの暗号化された手紙であった。
これらの手紙は、メアリーが 1578 年から 1584 年にかけて書いたもので、あて先は当時の駐英フランス大使のミシェル・ド・カステノ― (Michel de Castelnau) であった。
Also known as Mary Stuart, the then deposed queen of Scotland, who was a contender for the English throne, wrote these 57 ciphered letters between 1578 and 1584.
(訳) メアリー・ステュアートとも知られており、イギリス王座を主張していた、当時は廃位されたスコットランドの女王は、1578 年から 1584 年の間に、これら 57 通の手紙を書いていた。
これら暗号化された手紙は、イタリア語で書かれたものと信じられていたが、研究者が暗号を解き始めると、フランス語で書かれていることが分かった。
The ciphered letters were believed to be Italian. But as the researchers began to try to crack the code, they realized that the deciphered words would have to be in French for them to make sense.
(訳) 暗号化された手紙は、イタリア語で書かれたと信じられていた。しかし研究者たちが暗号を解き始めると、暗号化された言葉は、彼らが理解するフランス語であることが分かった。
単純な置き換えの暗号では、"e" という文字は頻繁に現れるので、判別しやすい。そこでメアリーの手紙は、よく出てくる文字を多様なシンボルに置き換えて、判読をより困難にしているのである。
In such a cipher, each letter of the alphabet is replaced with a particular symbol. But a simple substitution cipher is easy to crack because certain letters, such as “e,” appear much more often than others. So homophonic ciphers used multiple symbols interchangeably for high-frequency letters, Lasry says.
(訳) そのような暗号では、アルファベットの各々の文字が、特殊な記号に置き換えられる。しかし単純な置き換え暗号では、例えば "e" のような文字は、他の文字より頻繁にあらわれる。ラスリーは、「同音異語の暗号は、高頻出の文字に対して多くの記号を交換可能にして用いた」と言う。
手紙の内容の多くは、広範囲の外交を扱っており、メアリーの主目的と考えられていたスコットランドの王位復活は、あまり触れられていない。これから考えると、メアリーは、私たちが考えていた陰謀好きの女王というイメージだけでは理解できないことになりそうだ。
Much of the content of the letters is about wider issues of diplomacy than simply Mary’s attempts to reclaim the throne of Scotland or make a play for the throne of England, Doran says.
(訳) 手紙の内容の多くは、単にメアリーがスコットランド王位を返還要求したことやイギリス王位獲得の試みではなく、外交という幅広い問題を扱っている、とドーランは言う。
これらの手紙の研究は始まったばかりで、研究者はこれから多くの苦労をして、メアリーの本当の姿を解明していくであろう。今は上っ面をなでただけにすぎない。
Historians will now need to pore over the letters and put them in the context of Mary’s life and situation, Lasry says.
(訳) 歴史学者たちは、今や、手紙を熱心に読んで、メアリーの生涯と境涯という文脈の中で、手紙を考える必要があると、ラスリーは言う。
歴史研究者たちは、その成果をぜひ発表してもらいたい。エリザベス朝に興味を持つ人は、歴史の流れをもっと深く理解したいと望んでいるからである。