音楽と言葉

2017年実施の鹿児島大学英語入試問題の中に、アメリカの音楽大学 (Berklee College of Music) の学位授与式で話されたスピーチが取り上げられている。スピーチをしている人は、Gordon Matthew Thomas Sumner で、演奏の時に蜂を連想させる黄色と黒の縞の上着を愛用していたことから、スティングと呼ばれるようになった、イギリス生まれのミュージシャンである。入試問題はそのスピーチの後半の一部であるが、音楽の本質に触れた名スピーチと言ってよいであろう。

彼はまず母親の影響から音楽に興味を持ち、BBC (英国放送協会) 放送で、ビートルズやローリング・ストーンズと一緒に、モーツアルトやベートーベンを聞いていたことを告白する。そして多くの曲を作っているのに、作曲の方法は全く知らないと、驚くべきことを言っている。

A melody is always a gift from somewhere else.

(訳) メロディーはいつもどこかほかの場所からの贈り物だ。

2017年実施の鹿児島大学英語入試問題の英文は、次の言葉から始まっている。

Paradoxically, I'm coming to believe in the importance of silence in music.

(訳) 詭弁を弄するようだけど、音楽における沈黙の重要性を信じるようになっている。

それから沈黙とはどのようなものかを語り始める。

Silence is disturbing. It is disturbing because it is the wavelength of the soul.

(訳) 沈黙は心をかき乱すようなものだ。何故かというと、沈黙は魂の波長だからだ。

音楽が自分を何か神聖なものに触れさせると述べた後、音楽と言葉について深い洞察をしている。感動的な言葉は次のようなものだ。

It's very hard to talk about music in words. Words are superfluous to the abstract power of music. We can fashion words into poetry so that they are understood the way music is understood, but they only aspire to the condition where music already exists.

(訳) 音楽について言葉で語ることは非常に難しい。言葉は音楽の抽象的な力にとって必要ないものだ。私たちは言葉を変形させて詩を作ることができ、それでやっと言葉は、音楽が理解されるように理解される。しかし言葉は音楽がすでに存在している状態にただ憧れているだけだ。

さすが 2019 年にポール・マッカートニーから、彼の楽曲「フィールズ・オブ・ゴールド」を「僕 (ポール・マッカートニー) の人生そのものである」と最大級の賛辞を受けたミュージシャンだ。音楽と沈黙、音楽と言葉、音楽と詩について、深い考え方を持っており、様々なことを考えさせてくれる。

鹿児島大学の英語教員の中には、音楽に造詣の深い人材がおられるのであろう。

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