小椋佳の「もういいかい」

数年前の2021 年の 5 月 29 日 (土曜日) に 、NHK BS プレミアムで「もういいかい 小椋佳ファイナル~歌作り 50 年 青春に帰る~」が放送された。そこにはコンサートや歌の録音風景、日常生活などが撮影されており、非常に興味深く拝見した。録画して時折見ていたが、作詞をする際の決め事が、深い意義を持っているのではないかと思い、ここに記すことにした。

小椋佳は、私の気に入りの歌手であり、作詞家・作曲家であるが、遠い昔、私がイギリスのケンブリッジ大学に留学した時に、彼が NHK で初めてコンサートをした時の曲を集めた CD を一緒に持って行った。日本や日本語が懐かしいときには、それをよく聞いていた。今からちょうど 24 年前になるが、子供が受験にかかる時期でやむなく単身留学をしたので、日本語が恋しくなることがよくあった。当時でもインターネットが発達しており、日本の大学の同僚とはよくメールで連絡を取り合っていたし、安い電話回線もあったので、家族とは一日に一度話していた。それでも日本語や日本の風景がなつかしくなることがあった。私にとって小椋佳は日本を象徴する存在であった。

小椋佳はこのコンサートで引退するようだが、その言葉を聞くと、ある時代が終わるという印象を強く持った。現在 77 歳とのことで、だいぶ足腰が弱っておられるようだ。私より数年先輩であるが、長生きして多くの人に名曲を届けてほしいと心から思う。

彼は作詞の時には、次の 6 つのことに気を付けているそうである。

1 つ目は、「ありきたりを許さず」。ありきたりで凡庸な作詞はしないということである。同じことを何度も続けておれば、新奇な発想などなかなか出てこないので、この戒めは厳しいものがある。

2 つ目は、「常に考え続ける」。小椋佳は銀行を辞めて、東京大学哲学科に入りなおしたことは有名であるが、考えることは彼の常態であったのであろう。そうでなければあのような詩を書けないであろう。

3 つ目は、「歌作りは青春時代」。作詞をするときは、青春時代の想いを詞にこめると語っていた。やはり青春は様々な感情が心に渦巻いており、詩にしやすいのであろう。小椋佳は青年時代に自殺願望に取りつかれたようだが、その時「創造すること」に生き甲斐を求めたようだ。そのころの不安定な気持ちを思い出すことも、作詞や作曲の助けになるのであろう。年を取るとこのような瑞々しい気持ちは薄れていくことは、多くの人の経験することであるが、本当に悲しいことである。

\ 最新情報をチェック /