「感覚過負荷」に苦しむ女性 (Women suffering from Sensory Overload)

 皆さんは sensory overload という英単語をご存知だろうか?私は寡聞にして、Psyche (2022年4月6日) に掲載された手記を読んで初めて知った。

 "sensory overload" とは、「感覚過負荷」と日本語に翻訳され、意味は感覚に負担をかけ過ぎることである。

 この手記の筆者 Neesa Sunar は 5 歳からバイオリンを始めたが、音に敏感なため、ビブラートができなかったようだ。ビブラートとは、「音を際立たせるために音声や器楽音を細かくふるわせる奏法や唱法」新村出『広辞苑第六版』(岩波書店、2014年) であるが、私も中学生のころからクラシック・ギターを独習しているので、ビブラートは良く知っている。バイオリンでもギターでも、この技法は大切なもので、ビブラートで音の善し悪しが決まると言っても過言ではない。

 Neesa Sunar にとって、ビブラートが苦手なのは、音が彼女の感覚に異常に響くからである。

 音楽家を志望する彼女にとって、耐えがたい症状であるが、最近になってやっと専門家の助言を受けることにしたようだ。

I started finding relief from my self-deprecating perspective just a year ago, when I learned about sensory overload; this is something that folks on the autism spectrum may experience when the senses are overstimulated. It seemed to apply to my situation, but I didn’t have the expertise to figure out if this was indeed my experience. I spoke with Abby Klemm, a board-certified music therapist based in Brooklyn, New York City to better understand the occurrence of sensory overload.

(訳) ほんの 1 年前に、私は自己非難するような考え方を軽減する方法を求め始めて、そのとき「感覚過負荷」という言葉を学んだ。これは、自閉スペクトラム症を持つ人が、感覚に過度に刺激を与えられたときに経験するものである。それは私の状況に当てはまるように思えたが、これが本当に私の経験したことかどうか理解するために、専門家に聞いたことがなかった。私はニューヨーク市のブルックリンに根拠地を持つ、有資格者の音楽療法家であるアビー・クレムに、感覚過負荷の事例をより深く理解するため診察を受けた。

 音楽療法家のアビー・クレムは、感覚処理障害 (Sensory processing disorder) を次のように説明している。

‘Sensory processing disorder is a condition in which the brain has difficulty sorting through and processing sensory stimulation,’ Klemm told me. ‘This condition may occur on its own, or in conjunction with other conditions.’ This includes folks with chronic pain, anxiety disorders and those who are neurodivergent, such as people on the autism spectrum or with ADHD.

(訳) 「感覚処理障害とは、脳が感覚刺激を分類し処理する際困難を感じる状態です」とクレムは私に説明した。「この状況は単独でも起こりますが、他の状況と共に起こることもあります」これは慢性疼痛、不安障害を持つ人や、自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症 (ADHD) を患う人も含まれる。

 クレムの説明を聞いて、この手記の筆者は安心して、現在では音楽活動をしているようだ。彼女については、次のホームページ (https://www.verywellhealth.com/neesa-sunar-5217279) が役に立つので、興味のある方は訪問してみてほしい。

Klemm’s words reassure me that there is no existential battle between classical music and contemporary music on the radio, no good versus evil. Rather, my anger is a mental symptom that emerges because the music is overstimulating. I now find tremendous relief in identifying my experience as sensory overload, because it confirms that I am not fundamentally a bitter or angry person. I am simply overwhelmed.

(訳) クレムの言葉を聞いて、ラジオから聞こえる古典音楽と現在音楽の存在を賭ける戦いはなく、善と悪の対立関係もないことを知って、私は安心する。むしろ私の怒りは、音楽が過度の刺激を与えるために起きる精神症状である。今、私の経験が感覚過負荷と確認して、私は大きな安心感を覚える。というのは、その診断は、私は根本的に辛辣で怒りっぽい人物ではないことを保証してくれるからである。私は単に音に圧倒されているのだ。

 音に対して異常に感覚が鋭い人がいることは知っていた。耳が良すぎるのであろうと考えていたが、実は深い症状に悩んでいたことを知って、今では気の毒に思っている。これからは音に敏感な人に対して、やさしく接触しようと思う。

 世の中には、想像もつかないことで、悩んでいる人がいるものだ。

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