イギリス留学 (Studying in England)
ロンドンに住居を定める
このサイトの作成者は、1997 年 3 月から約 1 年間、イギリスのケンブリッジ大学に留学しました。専門がシェイクスピアでしたから、どうしてもアメリカよりイギリスへ留学したいと思っていました。もちろん、アメリカにも有名なシェイクスピア研究家はいますが、イギリスに行くと生の芝居が見られることが、大きな利点でした。留学は 2 回しましたが、2 度ともイギリスで、結局はアメリカには 1 度も行っていません。
1978 年にイギリス留学した前回とは異なり、ケンブリッジではなく、ロンドンで暮らしたのですが、それには 3 つの理由がありました。第 1 は、以前イギリスに行ったときは、ケンブリッジに 1 年間暮らしたので、今回は新しい別な場所がよい経験になると思いました。第 2 の理由は、ロンドンでは劇場がたくさんあり、シェイクスピアの上演が多く見られることです。シェイクスピアの作品は、上演を目的として書かれていますから、ただ本を読んでも理解できない部分が多くあります。やはり芝居を見ないと立派な論文は書けないと思って、住居はロンドンにしました。
ストラットフォード・アポン・エイヴォンでの観劇
ロンドンに住んだもう 1 つの理由は、シェイクスピアの故郷であるストラットフォード・アポン・エイヴォンに行くためです。ここでは、王立シェイクスピア劇団が、劇場を運営しており、ほとんど毎日シェイクスピアの作品を上演しています。ロンドンから車で 3 時間くらいかかりましたが、朝ロンドンを出発して、昼頃ストラットフォード・アポン・エイヴォンにつきます。そこで昼食をとって、昼の上演と夜の上演を見ていました。一つの芝居が約 3 時間かかりますから、6 時間ずっと芝居を見ることになります。夜の 10 時頃に芝居が終わりますから、その日は簡易ホテルの B & B に泊まり、翌日ロンドンに帰っていました。
1997 年の夏に興行されたシェイクスピアの演劇は、『シンベリン』(Cymbeline)、『空騒ぎ』 (Much Ado about Nothing) 、『ヘンリー八世』 (Henry VIII) 、『ハムレット』(Hamlet)、『ウィンザーの陽気な女房たち』 (The Merry Wives of Windsor) などがありました。『ハムレット』の上演中に、舞台装置が故障して、もう一度最初から上演されたことがありました。劇場の支配人が、舞台上に現れ、故障の経緯を説明し、もう一度最初から演技をすると言って、舞台から消えました。この時、なぜかイギリスの演劇界の底深さを感じました。
今も大切に持っている当時のパンフレットに、『シンベリン』の説明は、次のように書かれています。
One of Shakespeare's great late plays, Cymbeline is full of surprise and suspense. Fast moving and romantic, it is a fascinating mix of reality and fantasy.
(訳) シェイクスピアの優れた後期の作品の一つである『シンベリン』は、意外性とサスペンスに満ちている。速い展開とロマンティックなこの作品は、現実と幻想を魅惑的に混ぜ合わせたものだ。
ケンブリッジ大学での講義
さて、留学先はケンブリッジ大学ですが、ロンドンに住んでいましたから、講義や留学先であるケンブリッジ大学に用事があるときは、ケンブリッジまで車で行っていました。もう随分昔になりますので、あまりよく覚えてませんが、2 時間以上かかったと思います。しかし車で飛ばして折角ケンブリッジ大学についたにもかかわらず、時々、授業に休講がありました。このときは、さすがに気分を害しました。次の文章は、私が戯れに書いた小説の一節ですが、ロンドンからケンブリッジまでの走行の様子がよくわかります。
ケンブリッジまではロンドンから車で 3 時間もかからない距離だ。幹線道路 M11 をまっすぐ北上して、ハンチングドンに行く道に入る前で、A10 に右折をすればよいだけである。ただ M11 に着くまでロンドンの一方通行の多い道を走ることが面倒であった。彼はこれまで何回も走った経験があるので、M11 への入口を間違えることはない。12 月の道路は車が多く、渋滞に何度もかかったが、彼の車は 3 時間くらいでケンブリッジの緑の多い町並みにすべり込んだ。「美しい」とか「きれい」という表面上のほめ言葉では、ケンブリッジの町は言い尽くせない。
しかし本当のことを言いますと、私は留学の時には、大学の講義はあまり重視していませんでした。それは講義が大学生や院生が対象ですから、私がすでに読んだ本のことを授業で説明しているからです。英語のリスニングくらいの気持ちで受講していましたが、ケンブリッジ大学の先生方の英語は分かりやすく、よくノートが取れました。
ケンブリッジ大学の図書館とカレッジ
ケンブリッジ大学の図書館のすばらしさとカレッジ制度について話して、イギリスの教育について若干の補足説明をしたいと思います。
ケンブリッジ大学には、立派な図書館がありまして、ここにはイギリスで出版されるすべての本が入ります。だから私が必要とする本はすべてあるわけです。私は講義にはあまり出ていませんから、ケンブリッジに行ったときは、この図書館を利用することがほとんどでした。そこでは昼食もできますので、朝入ったら夜までいて本が読めるわけです。ところが、席取りが難しいのです。ケンブリッジ大学の学生は勉強熱心な方が多く、図書館が開いて時間が経つと、ほとんど閲覧室の席が空いていません。私は「訪問研究員」 (Visiting Scholar) という肩書きで留学したのですが、あまり特権がありませんので、席をとってもらうことはできないわけです。特に、私はロンドンから行きますから、図書館に着くのは、早くとも朝 10 時過ぎになるわけです。そこで、どうしたかというと、どうしても図書館で資料を調べたいときは、ケンブリッジの B & B に 1 週間泊まり込んで、図書館に通ったことを覚えています。イギリスの大学は入学は比較的簡単で、卒業することが難しいので、学生達は入学当初から、かなり真剣に勉強をしています。それとケンブリッジ大学に入ったというエリート意識が、勉強への意欲を駆り立てるようでした。
ケンブリッジ大学のカレッジ制度について若干の説明をします。学生は原則的にカレッジと大学の両方に所属します。しかし学生の選抜はカレッジがします。カレッジでは、他の学生と寮生活を送り、1 人から 4 人くらいまでの少人数授業である「スーパーヴィジョン」(supervision) が中心になります。これは学生が疑問に思うことをリサーチしたり、講義で分からなかったところを、教授であるスーパーヴァイザーが集中的に教えます。もちろん、担当教員によってそれぞれ授業の仕方は違いますが、この「スーパヴィジョン」は、ケンブリッジ大学の大きな特徴です。例えば、法律が専門の学生がいれば、ケンブリッジ大学の法学部のほうへ授業を受けに行き、「スーパーヴィジョン」はカレッジで受ける、ということになります。
今回の留学で、私は聖エドモンド・カレッジに所属していましたが、寮へは時々泊まっていました。食事もしたのですが、学生とあまりにも年齢が離れすぎていましたので、友達はできませんでした。やはり留学は若いうちのほうが有益だと思います。