テクノロジーの功罪 (The Merits and Demerits of Technology)
現在の情報量は圧倒的に多いが、それもコンピューターの e-mail や website や Facebook が、日常的に氾濫しているからである。2017 年の慶應義塾大学 (文学部) の英語入試問題は、この間の事情を、"an electronic flood" と表現している。出典は 2010年の The New York Times であるが、ここで描かれている事情は、現在にも当てはまる。例によって慶應義塾大学の文学部の試験は、一個の長文に様々な角度から受験生に問いかける形式である。
典型的な現代アメリカ人であるキャンベル氏は、パソコンのスイッチを切っても、他の電子機器が与える刺激が欲しいと思っている。こうなればほとんど病気であるが、現代人のほとんどすべての人が、このような傾向にあることは疑い得ない。
Even after he unplugs, he craves the stimulation he gets from his electronic gadgets.
(訳) パソコンのスイッチを切った後でさえ、彼は電子器具から得る刺激を欲しがっている。
慶応義塾大学は、次の二つの英文を和訳するように求めている。英語らしい表現で訳しにくい文章である。
1. She and other researchers compare the lure of digital stimulation less to that of drugs and alcohol than to food and sex, which are essential but counterproductive in excess.
(訳) 彼女や他の研究者たちは、デジタルから受ける刺激の誘惑を、薬物やアルコールの誘惑より、必要なものであるが過ぎると逆効果になる食物やセックスにたとえている。
2. But researchers say the habits and struggles of Mr. Campbell and his family typify what many experience―and what many more will, if trends continue.
(訳) しかしキャンベル氏や彼の家族の習慣や苦闘は、多くの人が経験し、この傾向が続けば、将来にはもっと多くの人が経験することを典型的に示していると、研究者たちは言っている。
2010 年の人々もかなりインターネットにのめりこんでいたようだ。
At home, people consume 12 hours of media a day on average, when an hour spent with, say, the Internet and TV simultaneously counts as two hours. That compares with five hours in 1960, say researchers at the University of California, San Diego.
(訳) 例えば、インターネットとテレビを同時に 1 時間見ていれば、2 時間と計算すれば、人々は家庭では平均 1 日に 12 時間メディアに費やしていることになる。それは 1960 年の 5 時間に匹敵すると、サン・ディエゴのカリフォルニア大学の研究者たちは言っている。
そして複数の情報処理を一度にする人 (multitaskers) は, ある実験では、" than accept a reward for putting older, more valuable information to work" (より価値のある古くて有効な情報を活用して利益を得るよりも) 新しい情報ばかり追いかける特徴を持つことが分かった。
ただテクノロジー依存のもっとも悪いことは、他者の気持ちを理解する能力が低下することだと、ナス氏は言っている。
Mr. Nass at Stanford University thinks the ultimate risk of heavy technology use is that it diminishes empathy by limiting how much people engage with one another, even in the same room.
(訳) 重度のテクノロジー依存の最終的な危険性は、たとえ同じ部屋にいても、お互いに関わりあう量を制限することで、他人の気持ちを理解する能力を減少させることであると、スタンフォード大学のナス氏は考えている。
この部分も慶応義塾大学の試験官は日本語訳を求めている。前の二つの文章と比べれば、それほど難しい英文ではない。
私たちは、便利な現代テクノロジーにのめりこんで、一番大切な他人に共感する心を失いつつあるのかもしれない。すべての人が自戒すべきことである。