三人の自殺者
Britannica Online の suicide の 項目を見ていたら、日本人にとって驚くべき記述があった。そこには日本の特攻隊が、2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件の先駆けであると断定している。
Japan’s use of kamikaze suicide bombers during World War II was a precursor to the suicide bombing that emerged in the late 20th century as a form of terrorism, particularly among Islamic extremists.
(訳) 第二次大戦中に日本が採用した神風特攻隊は、特にイスラム教徒過激者の間のテロリストの形として、20世紀後半に現れた自爆テロに先行するものであった。
Britannica Online に神風特攻隊とイスラム教徒過激派の類似点を指摘されて、この英文を最初に読んだときは驚いたが、このような見方もあると、最後には納得せざるを得なかった。
ところで私の知り合いで自殺した人は三人いる。一人目は中学校時代の後輩、二人目は高校の友達、三人目は知り合いのお嬢さんである。彼らは自爆テロとはまったく関係なく、人に迷惑をかけることなく死んでいった。
中学校時代の後輩は、自殺の理由がまったく分からなかった。自殺の日もいつもと何の変わりはなかったと、葬式の時に初めて会ったお母さんが涙ながらに話されていた。
高校の友人は天才肌の男で、気分の上下が激しく、躁うつ病気味であった。お父さんが大工なので、「私はキリストの生まれ変わりかもしれない」と半ば本気で話していた。同じ大学に入ったが、いつしか大学を辞めたと思ったら、共通の友人から自殺したと聞かされた。
三番目のお嬢さんは、私が二回目のケンブリッジ大学留学の時に、同じ時期にオックスフォード大学に留学していた知り合いのお嬢さんである。ロンドンで二、三度お会いしたが、私の印象はごく普通のお嬢さんというものであった。それが帰国して数年後に、自殺したとその知り合いから連絡が入り、これからは年賀状の交換は止めたいと言ってきた。彼女は死ぬまで躁うつ病に悩まされていたとのことである。ご両親の嘆きはどれほど大きいか、私には想像もできない。
中学校の後輩には自殺の理由はなく、首吊りの真似をしていて、何かの拍子に首がしまり、死んだのかもしれない。しかし、首吊りの真似をすることは、心底には自殺願望があったのかもしれない。大学の友人やお嬢さんは、人生への絶望感があり、それが耐えきれなく死んだのかもしれない。二人とも躁うつ病を患っていたことは間違いない。
2019 年 12 月に中国の武漢市で発生したと言われる新型コロナのため、自殺者が多いと最近のニュースでよく聞くが、そのニュースを聞くたびに、彼らのことを思い出す。助ける方法はなかったかと、今でも自問する。若いときに命を絶つのは、非常に勿体ないと思う。自分自身にも分からない将来の可能性があったかもしれない。その才能を伸ばすことなく死ぬのは残念である。いろいろな事情があると思うが、安易に命を絶たないでほしいと思う。私のように友達の死や知り合いの死を、一生悼む者もいることを覚えておいてほしい。
私は自殺者を責めようとは思わない。生きていて耐えきれない重荷があるときは、自殺することも人間の権利だと思う。だが私の目の前で自殺をしようとしたら、私は全力で止めるであろう。たとえそれが無駄になるかもしれないと分かっていても。